1. 第 1 回振り返りと本日のゴール
本日 3 時間で、自部署で 1 ヶ月実行できる「AI 活用計画書」を 1 枚作って持ち帰ります。前回作った業務×AI活用マップを起点に、セキュリティ判断とプロンプト技法を上乗せしていきます。
1.1 本日のタイムテーブル
| 所要 | セッション | 形式 | 持ち帰るもの |
|---|---|---|---|
| [15min] | 前回振り返りと Day2 概要 | 共有 | 本日のゴール認識 |
| [50min] | セキュリティとガバナンス | 講義 | 「入れていい / だめ」の判断基準 |
| [55min] | プロンプト実践ハンズオン(演習 1〜2 + 発展課題) | ハンズオン | 5 要素プロンプト型紙、業務シナリオの体感 |
| [50min] | 自部署 AI 活用計画と振り返り(演習 3) | ハンズオン + 共有 | 自部署 AI 活用計画書 v1 |
| [10min] | 質疑応答・閉会 | 双方向 | 第 3 回までの宿題 |
1.2 配布データの展開
本研修の配布データ ZIP を、研修開始前にデスクトップへ展開してください。
配布データの中身
②基礎/配布データ/ ├── README.md ← まず開く ├── handson_guide.md ← 演習進行ガイド ├── hints/ ← 演習 1〜7 の答え合わせ用 │ ├── step01_markdown_prompt_hint.md ← 構造化プロンプト │ ├── step02_minutes_summary_hint.md ← 議事録要約 │ ├── step03_mail_polish_hint.md ← メール推敲 │ ├── step04_doc_compare_hint.md ← 2文書差分 │ ├── step05_table_summary_hint.md ← 表データ集計 │ ├── step06_notebooklm_hint.md ← NotebookLM 体験 │ └── step07_dept_plan_hint.md ← 自部署活用計画 ├── templates/ │ ├── プロンプト型紙_5要素.md │ ├── 議事録ダミー.md │ └── 自部署AI活用計画書_テンプレート.md ├── demo_data/ │ ├── 改訂前_社内規程.txt │ ├── 改訂後_社内規程.txt │ ├── 月次顧客対応件数.csv │ └── 社内FAQ_NotebookLM素材.md └── _reference_完成例/ ← 研修中は開かない
_reference_完成例/ は答え合わせ用です。演習を始める前に開くと「考える」ステップが消えてしまうので、講師の指示があるまで開かないでください。hints/ 配下も Step 1〜3 を済ませた後の Step 4 で初めて開きます。
1.3 第 1 回からの宿題共有
「業務で 1 回 Gemini を使った結果」を、希望者が短く共有します。うまくいった事例も、いかなかった事例も、両方歓迎です。指名はありません。
2. セキュリティとガバナンス
この章は座学中心です。経産省ガイドラインの読み方、社内ルールへの翻訳、シャドーAI 対策の 3 本立てで、業務での「入れていい / だめ」を判断できる軸を作ります。
2.1 公的指針:AI 事業者ガイドライン 第 1.2 版
日本企業が AI を業務利用する際の公的な参照指針です。経済産業省と総務省の合同で 2026 年 3 月 31 日に第 1.2 版が公表され、AI エージェントやマルチモーダル AI への対応、リスクベースアプローチの具体化が追加されました。
「AI 利用者」が押さえる 7 つの責務
| 項目 | 具体的にやること |
|---|---|
| 契約・利用規約の確認 | 使う AI ツールの「データ取り扱い条項」を読み、入力データの行方を把握 |
| 入力データの機微性管理 | 機密情報・個人情報を入れない判断基準を明文化 |
| 出力の人間レビュー | AI 出力を業務利用する前に、人間が事実確認する手順を組む |
| 利用ログとインシデント窓口 | 誰が何に使っているか追跡、漏洩疑いの報告ライン整備 |
| 提供者制約の遵守 | ツール提供者が示す「やってはいけない用途」を守る |
| 従業員教育 | 定期的な研修と最新ガイドラインの周知(本研修もこれに該当) |
| AI エージェントの HITL 設計 | 第 1.2 版で新設。リスク水準に応じた人間レビュー設計 |
EU AI 法は 2026 年 8 月 2 日にガバナンス構造と GPAI 執行権限(AI Office の本格執行・制裁金等)が発効します。GPAI モデル義務は 2025 年 8 月 2 日から適用済み。一方、採用・与信・生体認証などの高リスク AI(Annex III)義務は、Digital Omnibus の暫定合意(2026 年 5 月 7 日)により、適用開始が 2026 年 8 月 2 日から 2027 年 12 月 2 日へ延期されました。日本企業は EU 域内の取引がある場合に対象になるため、別途確認が必要です。出典:欧州委員会 AI 規制枠組み / 実装タイムライン
2.2 情報取り扱いの判断基準
第 1 回でも触れた「入れていい / だめ」の線引きを、今回は社内規程レベルに翻訳します。配布データの demo_data/改訂後_社内規程.txt(架空の v4.0)を参考にしてください。
機密情報(入力禁止)
- お客様氏名・契約番号・住所
- 健康診断結果(数値含む)
- 人事評価情報・採用候補者情報
- 未公表の財務数値
社外秘情報(条件付き可)
- 稟議書ドラフト(コンプラ事前確認後)
- 会議資料(個人名匿名化後)
- 業務マニュアル(社外秘マーキング除去後)
- 社内ナレッジ(一般化された形)
AI による意思決定(採用判断、契約可否判断、与信判断、健康保険の給付可否判断など)は、AI 事業者ガイドライン第 1.2 版でも、社内規程 v4.0 でも明示的に禁止されました。AI は「叩き台」「下書き」「観点出し」までで、最終判断は必ず人間が行ってください。
3 環境 × 情報種別の早見表
同じ情報でも、どの環境に入れるかで判断が変わります。詳細な早見表はスライドで示します。共通の原則は「迷ったら入れない」です。会社アカウント(Workspace)は契約上アップロード資料が学習に使われない設計でも、機密・個人・要配慮情報は念のため入れない運用にします。
| 情報種別 | 無料版 Gemini | 個人有料 | 会社アカウント(Workspace) |
|---|---|---|---|
| 機密(契約番号・未公表財務など) | 入れない | 入れない | 原則入れない(迷ったら入れない) |
| 個人情報(氏名・住所など) | 入れない | 入れない | 原則入れない(マスキング後のみ検討) |
| 要配慮(健診結果など) | 入れない | 入れない | 入れない |
| 公開済み・一般化済み情報 | 可 | 可 | 可 |
やむを得ず個人情報を含む素材を扱うときは、渡す前に加工します。講師が demo_data/月次顧客対応件数_加工前.csv を使って、氏名列の削除 → 顧客 A への置換(ダミー置換) → 具体値の一般化 → 目視確認、の工程を実演します。配布済みの demo_data/月次顧客対応件数.csv が最初から集計値だけなのは、この加工を済ませた後の姿だからです。実務ではこの一手間を自分でかけてから AI に渡します。氏名列削除/ダミー置換/一般化/仮名化が代表的な手法です。
2.3 シャドーAI 対策:禁止より代替を
第 1 回でも触れたエルテス調査(2026 年 1 月)では、生成 AI 業務利用者の約 5 人に 1 人がシャドー AI に該当。IDC グローバル調査では従業員の 56% が承認外 AI を業務利用しています。「禁止令」だけでは止まりません。
本章の出典:
・経産省・総務省『AI 事業者ガイドライン 第 1.2 版』公表ページ / 概要 PDF
・内閣府 AI 法 本文
・エルテス『シャドーAI 実態調査』(2026 年 1 月、n=300)eltes.co.jp/news/20260119
・IPA AI 動作・利用方法に関するアンケート(2025 年 10 月)ipa.go.jp
3. プロンプト実践ハンズオン
必修は演習 1 と演習 2 の 2 本です。早く終わった方は発展課題(任意)へ進みます。すべて「考える → 書く → 実行 → 答え合わせ」の 4 ステップで、Step 4 で配布データの hints/ を開きます。参考プロンプトはガイド本文に載せず hints/ に別置きしています。
3.1 5 要素フレーム:今日の主役
本研修で使うプロンプトの基本型は、5 要素(役割・タスク・状況・出力形式・制約)に分けて書く方法です。配布データの templates/プロンプト型紙_5要素.md をコピペで使えます。
5 要素テンプレート(プレビュー)
# 役割 (誰として振る舞ってほしいか) # タスク (何をしてほしいか。動詞 1 つで明確に) # 状況・背景 (読み手は誰か、なぜ必要か、前提条件) # 出力形式 (行数・表/箇条書き・トーン・文字数) # 制約 (やってはいけないこと)
2025-2026 年のプロンプト技法 / 押さえるべき 4 原則
3.2 演習 1:構造化プロンプトを書く [ 12min ]
役割/タスク/状況/出力形式/制約 ── どこを具体化すれば「使える進行プラン」が返ってくるでしょうか。
templates/プロンプト型紙_5要素.md をコピー、各要素を埋めてください参加者 8 名、45 分、議題は「先月の発送遅延事案の再発防止策の合意形成」とします。
「曖昧な依頼」と「5 要素プロンプト」、両方投げて出力差を観察してください。
hints/step01_markdown_prompt_hint.md を開いて、参考プロンプトと比較5 要素がすべて埋まり、曖昧な依頼 1 回のときより具体的な回答が返れば成功です。
3.3 演習 2:議事録要約 [ 12min ]
templates/議事録ダミー.md(氏名を架空に置き換えた渡してよい素材)を Gemini に貼って、要点・決定事項・宿題の 3 セクションに整理させる5 要素プロンプトで「読み手は会議に出ていない他部署のメンバー」と前提を渡すのがコツ。匿名化と「元メモにない情報を補完しない」制約を必ず入れてください。答え合わせは hints/step02_minutes_summary_hint.md。
要点・決定事項・宿題(担当と期限)が構造化されて出力されれば成功です。
3.4 発展課題(任意)
必修 2 本を終えて余裕がある方だけ取り組んでください。参考プロンプトは各課題の hints/ にあります。いずれの素材も、氏名・数値を架空に置き換えた渡してよい素材です。
| 課題 | 内容 | OK 基準 | 答え合わせ |
|---|---|---|---|
| 発展 A / メール推敲 | 自分で下書きした架空のお客様回答メールを Gemini にレビューさせ、改善点を 5 つ出してもらう | 改善点 5 つと修正案が具体的に出る | hints/step03_mail_polish_hint.md |
| 発展 B / 2 文書の差分抽出 | demo_data/改訂前_社内規程.txt と 改訂後_社内規程.txt を比較。差分の表化・改訂意図の推定・現場への影響度評価を依頼 | 差分が表になり、意図が「推定」と明記される | hints/step04_doc_compare_hint.md |
| 発展 C / 表データ集計 | demo_data/月次顧客対応件数.csv を Gemini に貼り、傾向の言語化・外れ値の指摘・Google スプレッドシート用の関数案を出させる | 傾向が言語化され、スプレッドシート前提の関数案が返る | hints/step05_table_summary_hint.md |
4. 自部署 AI 活用計画と振り返り
冒頭に講師が NotebookLM と Gem のデモを見せます(手元体験は任意)。その後、第 1 回の業務×AI活用マップを起点に、自部署で 1 ヶ月実行できる計画書を 1 枚にまとめます。研修終了後、上長共有まで持っていける状態を目指します。
4.1 講師デモ:NotebookLM と Gem [ 10min ]
ここは全員必須のハンズオンではありません。講師が画面で挙動を見せます。手元で触りたい方は、配布データの demo_data/社内FAQ_NotebookLM素材.md を使って演習後に試してください。参照フローは _reference_完成例/NotebookLM_体験フロー.md。
Google 提供のソース基盤型 AI リサーチツール。アップロードした資料のみを根拠に回答するため、社内規程 Q&A や複数文書横断分析に向いています。バックエンドは Gemini 3 系(2025 年 12 月に Gemini 2.5 系から切替)。アップロードした資料はモデル学習に使われません。ソース上限はノートブックあたり Free 50/Plus 100/Pro 300/Ultra 500〜600、1 ソース最大 50 万語または 200MB。Audio Overview(音声概要)は無料版 1 日 3 回・Ultra 1 日 200 回。Workspace Business Standard($14/user/月)には NotebookLM(Plus 相当キャップ+エンタープライズデータ保護)が同梱、個人向け Plus は Google AI Plus($7.99/月)。出典:公式ヘルプ / Cloud Enterprise / notebooklm.google
| 観点 | Gemini | NotebookLM |
|---|---|---|
| 知識ソース | Web 全体 + 学習済み知識 | アップロードした資料のみ |
| 役割 | 汎用アシスタント | 専属リサーチアシスタント |
| 出典の表示 | あいまい | 各回答に引用番号と元箇所表示 |
| 向く用途 | 文章生成、壁打ち、検索代替 | 社内規程 Q&A、議事録横断、契約比較 |
4.2 演習 3:自部署 AI 活用計画書 [ 31min ]
ベースにする資料
- 第 1 回作成「業務×AI活用マップ」スプレッドシート(優先度「高」かつ G 列に ○ の業務を起点に)
- 配布データ
templates/自部署AI活用計画書_テンプレート.md - 本日 Section 02 で扱ったセキュリティ判断基準
- 本日 Section 03 で作った 5 要素プロンプト
計画書の 8 セクション
| セクション | 埋める内容 |
|---|---|
| 1. サマリー | 対象業務(1〜2 件)、期間、期待効果、関与者 |
| 2. 現状分析 | 業務の頻度・所要・困りごと |
| 3. AI 適用方針 | AI 担当部分 / 人間担当部分、使うツール、プロンプト型紙 |
| 4. セキュリティ判断 | 入れていい / だめのデータ、影響度、追加対策 |
| 5. 4 週間スケジュール | 週ごとの行動と完了基準 |
| 6. 成功基準 | 主指標・副指標を数値で、計測方法も明記 |
| 7. リスクと対応 | 想定リスクとそれぞれの対応策 |
| 8. 上長コメント欄 | 提出後に上長コメントを記入 |
優先度「高」かつ G 列に ○ の業務から、最も気軽に始められる 1〜2 件を選んでください。多すぎると 1 ヶ月で回りません。
セキュリティ判断は Section 02 で扱った基準を、プロンプト型紙は Section 03 で作ったものを、それぞれ転記してください。
よく出る指摘:対象業務が多すぎる、成功基準が数値化されていない、4 週目のレビュー日が決まっていない。
hints/step07_dept_plan_hint.md で観点確認、_reference_完成例/自部署AI活用計画書_完成例.md で完成例(架空のAさん)を参照対象業務 1〜2 件/データ取り扱い判断/成功基準の数値/4 週スケジュールが埋まっていれば成功です。
4.3 振り返り [ 15min ]
次の 3 つの観点を、自分の計画書に照らして 1 人で書き出してください。講師が匿名で拾って全体に紹介することがあります。指名や発表はありません。
- 対象業務として何を選び、なぜそれを選んだか
- 成功基準として何の数値を計測するか
- 1 番ハードルが高そうなのは何か
第 3 回(エンジニア向け)受講対象の方:自部署計画書を 1 週間アップデートしてみて、上長との合意を取ってください。
第 3 回非対象の方:1 ヶ月後(8 月末)に計画書のレビューを行い、結果を安田までメールでご共有いただけると、次回研修教材に活かさせていただきます。
5. 質疑応答・閉会
本日の質疑をこの 10 分で扱います。事前アンケートで未回収の質問、当日チャットで上がった質問の両方に対応します。
5.1 全 3 回シリーズの位置づけ(再掲)
| 回 | テーマ | 対象 | 到達点 |
|---|---|---|---|
| 第 1 回 | 完全入門編:生成AIとの向き合い方 | 全社員(25 名) | 業務で 1 件 AI を使えた成功体験 |
| 第 2 回(本日) | 基礎研修:リテラシーとプロンプト実践 | 選抜(15 名) | 自部署 AI 活用計画書 v1 |
| 第 3 回 | エンジニア向け:AI 活用と業務効率化 | エンジニア(10〜15 名) | 開発ワークフロー × AI 活用マップ |
5.2 用語集
本日のゴールは「自部署計画書 v1」の完成でした。完成版を上長と共有することで、計画が机上から実行へ移ります。第 3 回受講対象の方は次回お会いしましょう。第 3 回非対象の方は、本シリーズはここで一区切り。1 ヶ月後のレビュー結果をぜひお知らせください。
参考リンク
- 経済産業省・総務省『AI 事業者ガイドライン 第 1.2 版』(2026年3月31日):meti.go.jp / AI事業者ガイドライン
- 同 概要 PDF(本編):meti.go.jp/pdf/20260331_2
- 内閣府 AI 法(人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律):cao.go.jp / AI法
- EU AI 法 概要 仮訳(欧州連合日本政府代表部):eu.emb-japan.go.jp / EU AI法
- NotebookLM 公式:notebooklm.google
- NotebookLM Workspace コアサービス化(2025/2):workspaceupdates.googleblog.com
- NotebookLM Studio 機能アップデート:blog.google / notebooklm-studio-upgrades
- NotebookLM Gemini 3 切替(2025/12):9to5google.com / notebooklm-gemini-3
- Generative AI in Google Workspace Privacy Hub:support.google.com
- Anthropic Use XML tags for prompts:docs.claude.com
- Anthropic Prompting best practices:platform.claude.com
- Google Gemini 3 prompting guide:docs.cloud.google.com
- OpenAI GPT-5.1 Prompting Guide:cookbook.openai.com
- Wharton GAIL「専門家ペルソナ研究」(2025):gail.wharton.upenn.edu / expert-personas
- Wharton GAIL「Chain-of-Thought の効果低下」(2025):gail.wharton.upenn.edu / chain-of-thought
- The Few-shot Dilemma: Over-prompting LLMs (arXiv 2025):arxiv.org/html/2509.13196v1
- Prompt Engineering with Reasoning Models (PromptHub):prompthub.us
- エルテス『シャドーAI 実態調査』(2026 年 1 月):eltes.co.jp/news/20260119
- IPA AI 動作・利用方法に関するアンケート(2025/10):ipa.go.jp / technicalwatch/20251023